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四十路になったおいわいに

女が四十をむかえるとき。それはなにかのおわりでもあり、はじまりでもある。

化粧がマナーって、一体誰に教わるものだろう?

成人女性が化粧することは一般常識。私がそのことを知ったのは成人してからずいぶん年数を重ねたあとだった。誰も教えてくれなかったから。すっぴんの私に面と向かって「化粧はマナーだ」と言う人がいなかったから。たまに「もしかして、すっぴん?」と聞いてくる同性の先輩や知人がいたが、その質問の本意が「化粧は常識なのに、信じられない」だとは気づいていなかった。

普通こういったことは母親や近しい人物から教わるものなのだと思う。私の母といえば、出掛けるときには念入りに化粧をしていた。しかしそれが女として当然の身だしなみと教えることはなかった。私には女の姉妹もいなかったから、化粧をおぼえることなく家を出て遠方の大学へ入り、すっぴんのまま社会へと飛び出していった。

二十歳をこえても、基礎化粧品やベースメイクというものがいまいち分からなかった。夜のアルバイトに身を投じたとき、下地も塗らずにドラッグストアーでなんとなく購入したファンデーションを肌にのせて、口紅をつけた。アイラインはどこに引くのかわからなかったから、なんとなくアイシャドウを目の回りにつけてみたり、自己流で眉毛をハサミで切ったりした。

女としての身だしなみの方法がわからない私は、常に周りの女たちとの距離を感じていた。日中に派遣社員として働いたとき、昼休みにトイレの洗面台が混雑するのが恐ろしかった。みんな必死に鏡を見て化粧直しをしているので、歯みがきだけをする自分は肩身が狭かった。

ある時、同じ派遣社員である人から声をかけられた。気が合ってときどき一緒にランチを食べに行ったり、話したりしていた女性だった。

「今日、ファンデーション持ってくるの忘れてしまって。悪いんだけど貸してもらえない?」

そう頼まれて私は内心とても焦った。

普段ろくな化粧をしていないことに罪悪感をおぼえた。

「ごめん、ファンデーション持ってないんだ」

正直にそう言った。嘘ではなかった。その頃の私はリキッドのファンデーションを出掛ける前に家で塗って、持ち歩いてはいなかった。

「そうなの。わかった」

その人はあっさりと納得したようだった。だけどもしかしたら、ファンデーションを貸したくないばかりに私が嘘をついたと疑われても仕方がないと思った。

 

結局、私が「化粧は常識」ということに気づきはじめたのは、ごく最近。中年になってからである。きっかけは、ネットを見ていたときだった。肌が弱くて化粧ができない女性の悲痛な記事を読んだことだった。

これほどまでに、社会人としての常識として女性の化粧があったとは。私はとても驚いたと同時に、これまでほぼすっぴんでいたことを恥じた。そして化粧についての基礎知識をネットで調べ、人並みの化粧品をそろえた。化粧品メーカーのカウンターには未だに行く勇気はないけれど。

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