九ヶ月の孤独

女子大生が羽田空港のトイレで出産し、乳児を殺害したのちに都内の公園に埋めたというニュースを知り、以前の自分とは異なる感想を抱いている。

以前というのは、とある出来事を境にしたもので、もしそれ以前の自分であれば

 

「いくらなんでも周りの人が妊娠に気がつくでしょ」

 

と思っていた。

 

しかし、その出来事を境に、こういった事例はそんなに珍しくないのかもしれず、今もどこかに孤独な妊婦は存在しているのだろう、と認識をあらためた。

 

その出来事というのは、数年前のこと。

 

うちの子供が毎週通っていたある習い事。そこは実力に応じてコースがわかれていて、コースごとに指導者がついていた。

 

親が送迎して、子供が習っているあいだはガラス越しに見守る方式。おわったあとは指導者によるフィードバックも都度行われる。

 

ある日、それまで子供を指導してくれていた担当が変わっていた。指導者が変わるときには何かしらお知らせがあるものだがこのときはなかったのでたまたま休みなのかと思った。

 

その日のフィードバック。

代わりとなって指導してくれた先生に「今日は担当の◯◯先生はお休みだったんですか?」と軽い気持ちで聞いたら

 

「実は◯◯、先日出産しまして…」

 

と返ってきて、驚きのあまり椅子ごとひっくり返りそうになった。

 

なぜなら、この習い事というのはスイミングスクール。

◯◯先生はつい先週までスイミングウェアを着用してプールに入り子供らを指導していた。

 

臨月なんてものじゃない、まさに出産直前まで身重とは思えない業務をしていたとは…

 

あまりに面食らったので、何回か聞き直したと思う。耳を疑うってああいうことなんだね。

 

職員さんに聞いたところによると、

 

「周りが『それ妊娠してるんじゃないの~?』と言っても頑なに否定していた」

 

らしい。

 

とりあえず母子ともに健康状態は良好で、スイミングのうちの子供の担当は急遽変更になったらしい。

 

それから、◯◯先生の姿を見かけることはなくなった。

辞めたのか転勤になったのかは、聞いてないのでわからない。

 

◯◯先生は未婚、年齢はいくつか知らないけれど30いってないくらい、だったと思う。

 

自分は毎週、出産までの◯◯先生を妊娠とは知らず見学していたわけだ。

全体的に少しふっくらしていたけど、単にお太りになられただけかと思ってた。

時々すごく顔色が悪くて、笑顔も全くないくらいのときがあったけど、ただ疲れているのかなと思ってた。人知れず妊娠しているなんて、全くもって、思いもよらなかった。

 

毎日水着姿でいても、密かに妊娠を継続でき、周りは気づかない、実際に私も全く気づけなかった、という衝撃。

 

仮に妊娠を指摘されたとしても本人が否定し続ければ、周りはどうすることもできない。